二年から三年時に担任だった北村はこのご時勢には珍しい体罰教師でものさしをいつも持ち歩き、風紀を乱すような行動(腰パンから煙草まで)をとったり、宿題をやってこなかったり、問題が解けなかったりするとそれでポンポンと頭を小突くのだ。僕はぎりぎり注意されるかされないかの生徒だったので叩かれるときはいつも問題が解けないときだった。

その当時はいけすかない野郎だと思っていたのだが、今にして思えばいい先生だった。ユーモアがあったし、説教には愛があった。何よりこいつのおかげで数学を勉強するようになった。解ければ叩かない。そして解けると悔しそうな顔をする。その悔しそうな顔が見たくて僕はやっきになって勉強した。もしも違う教師が担任だったら勉強しなかっただろう。そこそこの点数をおさめたのはこいつのおかげだ。

「おお!仁成!」

大学に入って最初の夏休み。暇を持て余していつもは行かない少し遠くの古本屋へ行くとその教師がいた。

「いやー、たまたまですねー。僕普段ここまで来ないんですけど」

「おー、先生もな。今日はたまたま来たんだ」

とそれから数回に渡って各々普段は来ないところで出くわすようになった。普段行かないバー、いつもは降りない駅などなど。そしてその頻度はましており二年に一回→一年に一回、半年、三ヶ月←今ココとなっている。おそらくここ数週間のうちに出くわすことだろう。

これがマドンナ的な存在だった石原さんだったらどんなにいいかと思う。そしてその心を正直に担任に伝えたところ「先生もそう思う」と帰ってきた。

いい教師だが、正直すぎることがたまに傷なのかもしれない。